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  3. 神奈川県の中小企業M&Aで表明保証・補償条項を揉めさせない準備

神奈川県の中小企業M&Aで表明保証・補償条項を揉めさせない準備

2026 6/02
コラム
2026年5月10日2026年6月2日
神奈川M&A総合センター ロゴアイキャッチ

神奈川県で会社売却や事業承継M&Aを検討する中小企業にとって、価格交渉や買い手探しと同じくらい重要なのが、最終契約に入る表明保証と補償条項の整理です。表明保証は、譲渡企業が会社の状態について一定の事項が真実であると表明し保証する条項であり、補償条項はその前提が崩れた場合の損害負担を定める条項です。言葉だけを見ると専門家向けの契約用語に見えますが、実務上は、譲渡企業経営者の退任後の安心、買い手の投資判断、金融機関や取引先への説明、従業員の雇用継続に直結します。

特に神奈川県内の中小企業では、横浜・川崎の都市型サービス、県央・県西の製造業、湘南・三浦半島の観光・生活関連サービス、相模原や厚木周辺の物流・設備関連など、地域ごとに事業の強みとリスクの出方が異なります。だからこそ、契約書のひな形に任せるのではなく、自社の実態を踏まえてどこまで表明し、どこまで補償し、どの条件が整えば実行するのかを、早い段階で言語化しておく必要があります。

本記事では、実在企業の個別事例ではなく、神奈川県内の中小企業M&Aで起こりやすい実務論点を基にした整理として、表明保証・補償条項・デューデリジェンス(DD)・経営者保証・クロージング条件の考え方を解説します。公的情報として、中小企業庁の中小M&Aガイドライン第3版、神奈川県事業承継・引継ぎ支援センター等の情報を参照し、譲渡企業側が相談前から準備できる事項に絞ってまとめます。

目次

この記事で重複を避けたテーマ

既存記事では、会社売却の初動、譲渡価格の考え方、秘密保持、従業員説明、株式譲渡と事業譲渡、製造業・建設業・医療介護などの業界別事例をすでに扱っています。今回はそれらと重ならないよう、価格やスキームの前提を最終契約にどう落とし込むかに焦点を当てます。譲渡価格そのものの考え方は、既存記事「<a href="https://kanagawa-ma-center.jp/2026/05/01/kanagawa-company-valuation-basic/">会社の譲渡価格はどう決まるか 神奈川県中小企業の基本整理</a>」を先に確認すると理解しやすくなります。

表明保証は譲渡企業を縛るだけの条項ではない

表明保証という言葉には、譲渡企業が一方的に責任を負わされる印象があります。しかし実務上は、買い手が何を心配しているのかを明確にし、譲渡企業がどこまで説明済みなのかを残す機能もあります。例えば、決算書、税務申告、労務、主要契約、許認可、訴訟・紛争、知的財産、設備、在庫、借入、役員借入、関連当事者取引などについて、買い手が確認したい項目を整理し、譲渡企業が開示した情報との関係を契約書に反映します。

神奈川県の中小企業では、代表者と会社の距離が近く、口頭合意や長年の取引慣行に依存しているケースもあります。横浜市内の法人向けサービス業であれば継続契約の更新条件、川崎市の製造業であれば外注先や品質保証、県央の設備工事業であれば資格者・協力会社・未成工事、湘南の店舗型サービスであればスタッフと顧客の関係が重要です。これらが書面で整っていない場合、買い手は価格を下げるか、補償条項を厚くするか、クロージング条件を厳しくする方向に動きやすくなります。

逆に、譲渡企業側が早い段階で資料を整え、例外事項を正直に開示し、契約で扱うべき論点を先に見つけておけば、表明保証は不利な条項ではなく、取引の前提を明確化する道具になります。大切なのは、何でも保証することではありません。何を保証でき、何は例外として開示し、何については買い手側の調査と判断に委ねるのかを分けることです。

M&A最終契約で確認するDDから補償条項までの流れ
DDで見つかった論点を、表明保証・補償・クロージング条件に接続して整理する。

中小M&Aガイドライン第3版が示す最終契約リスク

中小企業庁の中小M&Aガイドライン第3版では、最終契約に定めた事項の不履行等がトラブルにつながるリスクが取り上げられています。特に、経営者保証の扱い、DDの非実施、表明保証の内容、クロージング後の支払・手続、最終契約後の支払の調整、譲渡企業側の資産・貸付金の整理など、契約締結前に確認すべき事項が具体的に示されています。

この点は、神奈川県内の中小企業にもそのまま当てはまります。例えば、会社売却後に代表者が退任する予定であっても、金融機関の借入に旧代表者の個人保証が残れば、譲渡企業は実質的にリスクから離れられません。また、買い手がDDを十分に行わないまま契約を急ぐと、契約後に未払い残業、未収金、在庫評価、許認可、設備の修繕義務などが問題化し、補償請求や支払留保につながる可能性があります。

中小M&Aガイドラインの関連資料には、最終契約におけるリスク事項についての説明書サンプルや、各種契約書サンプルも掲載されています。ひな形をそのまま使うのではなく、自社の事業構造に合わせて、どのリスクが本当に重要かを確認するための入口として活用するのが実務的です。

DDを受ける前に譲渡企業が整理すべき資料

DDは買い手が行う調査ですが、譲渡企業が受け身でいると、調査の途中で資料不足や説明の不一致が見つかり、交渉が止まりやすくなります。表明保証や補償条項を過度に重くしないためには、譲渡企業側で先に資料を整理することが有効です。

  • 直近3期分の決算書、勘定科目内訳、税務申告書、月次試算表
  • 主要取引先別の売上、粗利、契約期間、解約条件、担当者依存の有無
  • 借入金、役員借入金、リース、保証、担保、金融機関との協議状況
  • 従業員一覧、雇用契約、賃金台帳、残業管理、有給休暇、社会保険加入状況
  • 許認可、資格者、届出、行政指導、更新期限、名義変更や承継可否
  • 不動産賃貸借契約、設備リスト、修繕履歴、在庫、固定資産台帳
  • 紛争、クレーム、未回収債権、取引先との口頭合意、関連当事者取引

これらは単なる資料集めではありません。買い手が確認したい論点を先回りし、契約でどのように扱うかを決めるための基礎になります。資料が揃っていれば、譲渡企業は『開示済みの事項は補償対象から外す』『一定金額未満の軽微な事項は対象外にする』『補償期間を限定する』といった交渉をしやすくなります。

補償条項で揉めやすい5つの論点

1. 補償対象の範囲

補償対象が広すぎると、譲渡企業は譲渡後も長期間リスクを抱えます。一方で、対象が狭すぎると買い手は不安を感じ、価格や支払条件に反映しようとします。実務では、表明保証違反、契約上の義務違反、特定の税務・労務・許認可リスク、開示されていない債務などを分けて整理します。

2. 補償期間

すべてのリスクを同じ期間で扱う必要はありません。一般的な事項、税務、労務、許認可、環境、知的財産などでは、問題が発覚するタイミングや法的な時効・調査期間が異なります。中小企業の取引では複雑にしすぎると管理できないため、重要事項とその他事項を分け、譲渡企業が受け入れられる期間を検討するのが現実的です。

3. 補償上限額

補償上限がない契約は、譲渡企業にとって譲渡対価以上のリスクになり得ます。買い手側から見ても、上限のない補償を求めると交渉が長期化し、取引そのものが成立しにくくなります。譲渡価格、発見されたリスクの大きさ、DDの実施状況、保険の利用可能性、支払方法を踏まえて、上限額を設定するかどうかを検討します。

4. 免責金額と少額請求

少額の不一致まで補償対象にすると、譲渡後の関係が悪化しやすくなります。一定額未満は請求対象外とする免責金額、一定額を超えた場合だけ請求できるバスケット条項、個別項目ごとの下限額などを置くことで、実務上重要なリスクに集中できます。神奈川県内の地域密着型企業では、譲渡後も旧代表者が顧客や従業員対応に関わることがあるため、関係維持の観点からも少額請求の扱いは重要です。

5. 支払方法と留保

譲渡代金を一括で支払うのか、一部を留保するのか、アーンアウトを設けるのかは、補償条項と密接に関係します。買い手がリスクを強く感じる場合、一部代金の支払を後日に回す提案が出ることがあります。譲渡企業としては、留保額、解除条件、支払期限、相殺の可否、資料提出義務を明確にしなければ、譲渡後に資金回収が不安定になります。

経営者保証は最終契約前に扱いを明記する

神奈川県の中小企業M&Aで特に見落とされやすいのが、経営者保証の解除・移行です。会社の株式や事業を譲渡しても、金融機関の保証契約がそのまま残れば、旧代表者は事業から離れた後も債務リスクを負うことになります。これは譲渡企業にとって、会社売却の目的を損なう重大な論点です。

中小M&Aガイドライン第3版では、経営者保証について、保証の解除または買い手側への移行を想定する場合には、最終契約に明確に位置付けることが重要とされています。具体的には、買い手側の義務として保証解除・移行を定める、保証解除をクロージング条件にする、解除されなかった場合の契約解除や補償を定める、といった方法が考えられます。

譲渡企業側は、M&Aの相談を始める前から、借入残高、保証人、担保、金融機関、返済条件、コベナンツ、代表者個人の資産提供の有無を一覧化しておくべきです。金融機関への相談時期は秘密保持との関係で慎重に設計する必要がありますが、保証の存在を後から出すと、買い手の資金計画や契約条件に大きく影響します。

神奈川県の会社売却で確認したいクロージング前チェックリスト
最終契約前の確認項目を譲渡企業側で先に整えると、再交渉や契約後トラブルを抑えやすい。

許認可と契約承継は神奈川県の業種特性に合わせて確認する

表明保証・補償条項は、財務や税務だけの問題ではありません。建設業、産業廃棄物、運送、介護、医療関連、食品、旅館・宿泊、警備、人材、古物、酒類、宅建など、許認可や届出が事業継続に直結する業種では、スキーム選択とクロージング条件が重要です。

株式譲渡では法人格が同じまま継続するため、許認可がそのまま維持されるように見える場合があります。しかし、役員変更、株主変更、営業所変更、資格者の退職、欠格事由、財務要件、行政への事前相談の必要性などによって、実務上の確認事項は異なります。事業譲渡では、契約や許認可が自動的に移るとは限らず、個別の承諾・再取得・届出が必要になることがあります。スキームの違いは、既存記事「<a href="https://kanagawa-ma-center.jp/2026/05/01/stock-transfer-business-transfer/">株式譲渡と事業譲渡の違いを神奈川県の会社売却目線で整理</a>」も参照してください。

横浜・川崎の店舗型サービスでは賃貸借契約と内装設備、湘南や県西の観光関連では予約サイト・口コミ・季節変動、県央の物流・設備関連では車両・倉庫・安全管理、製造業では外注先・品質保証・設備保全が問題になりやすい領域です。これらを契約前に整理しないまま『事業は問題なく継続できる』と表明すると、後日の補償請求につながる可能性があります。

匿名モデルケース:県央の設備保守会社で起こりやすい整理

以下は実在企業を特定しない匿名化したモデルケースです。県央エリアで設備保守会社を営むA社は、代表者の年齢と後継者不在を理由にM&Aを検討しました。売上は安定していましたが、主要顧客との契約が自動更新の口頭運用に近く、資格者の一部が高齢化し、金融機関借入には代表者保証が付いていました。買い手候補は、顧客基盤と技術者を評価する一方で、契約書の未整備と保証解除の見通しを懸念しました。

このケースで譲渡企業側が先に行うべき整理は、主要顧客との契約条件の確認、資格者一覧と退職可能性の把握、未請求・未収金の確認、保守履歴の台帳化、金融機関借入と保証契約の一覧化です。さらに、買い手候補に対して『どの契約は書面化済みか』『どの顧客は譲渡後の挨拶が必要か』『保証解除は金融機関協議をクロージング条件にするか』を示せる状態にします。

この準備ができていれば、表明保証では『開示資料に記載された契約を除き、主要契約に重大な違反はない』といった限定が検討できます。補償条項でも、既に開示した顧客契約の更新リスクを一律に譲渡企業負担とするのではなく、買い手が承知した上で価格や運営計画に織り込んだ事項として扱いやすくなります。

秘密保持と開示範囲の線引き

表明保証の交渉を進めるには、買い手候補に相応の情報を開示する必要があります。しかし、従業員、取引先、金融機関、競合先にM&A検討が漏れると、事業価値そのものが損なわれる可能性があります。したがって、秘密保持契約、開示資料の段階管理、買い手候補の属性確認は必須です。

最初からすべての資料を渡すのではなく、匿名概要、秘密保持契約後の概要資料、意向表明後の詳細資料、基本合意後のDD資料というように段階を分ける方法が現実的です。既存記事「<a href="https://kanagawa-ma-center.jp/2026/05/01/confidentiality-before-sale/">会社売却を知られずに進めるための秘密保持と情報管理</a>」でも触れている通り、情報管理は単なる慎重姿勢ではなく、譲渡価格と交渉力を守るための実務です。

表明保証の対象にする情報は、買い手に開示した資料と整合していなければなりません。譲渡企業側の説明、提出資料、契約書の文言がずれると、後から『説明と違う』という紛争になりやすくなります。相談段階から、どの資料を、いつ、誰に、どの版で渡したかを管理しておくことが重要です。

買い手候補の見極めも補償リスクに直結する

譲渡企業は、買い手が高い価格を提示するかどうかだけでなく、契約を守る能力と意思があるかを確認する必要があります。中小M&Aガイドライン第3版でも、不適切な譲り受け側への対応や、最終契約の不履行リスクが意識されています。買い手候補の資金調達力、過去のM&A経験、業界理解、従業員への対応方針、金融機関との関係、経営者保証への対応姿勢は、価格と同じくらい重要です。

神奈川県内の企業では、譲渡後も旧代表者が一定期間引き継ぎに残るケースがあります。この場合、買い手が約束した雇用条件、顧客対応、設備投資、保証解除を実行しなければ、旧代表者は地域での信用を失う可能性があります。買い手探索の考え方は、既存記事「<a href="https://kanagawa-ma-center.jp/2026/05/01/finding-buyers-kanagawa/">神奈川県の会社に合う買い手候補を探す時の見方</a>」とも合わせて確認すると、契約条件の意味が見えやすくなります。

例外開示表を作ると交渉が具体化する

表明保証の実務で重要になるのが、例外開示表です。例外開示表とは、譲渡企業が表明保証の対象事項について、例外や注意点をあらかじめ記載する資料です。例えば『主要契約に重大な違反はない』と表明する場合でも、更新協議中の契約、口頭合意が残る契約、名義変更が必要な契約、支払条件の変更を依頼されている取引先などがあれば、例外として記載します。これにより、買い手はリスクを把握した上で価格や条件を判断でき、譲渡企業は開示済み事項について後から表明保証違反と主張されるリスクを下げられます。

例外開示表は、専門家だけが作るものではありません。最初の材料は、譲渡企業経営者と経理・総務・現場責任者が持っています。神奈川県内の中小企業では、社長だけが知っている取引条件、長年の担当者だけが把握している納品ルール、店舗責任者だけが知る顧客対応履歴などが少なくありません。これらを『問題があるから隠す』のではなく、『買い手が判断できるように整理する』という発想に切り替えることが大切です。

例外開示表を作る際は、単にリスクを書き並べるのではなく、影響額、発生可能性、対応状況、買い手に求める判断を添えると交渉が進みやすくなります。例えば未回収債権であれば、発生日、相手先、金額、回収交渉の状況、貸倒引当の有無を整理します。労務であれば、勤怠管理の方法、過去の残業実態、是正済みの事項、今後の運用変更を整理します。許認可であれば、期限、更新要件、名義変更の要否、行政相談の必要性を示します。

クロージング条件は実行前の安全装置になる

M&Aでは、最終契約を締結した日と実際に株式や事業を移転する日が同じとは限りません。契約締結後、一定の条件が整ってから実行することがあります。この実行日までに満たすべき条件がクロージング条件です。表明保証や補償条項が事後的な責任を扱うのに対し、クロージング条件は『この条件が整わなければ実行しない』という事前の安全装置です。

例えば、経営者保証の解除、金融機関の同意、重要な賃貸借契約の承諾、許認可の届出、主要取引先への通知、キーマン従業員の継続確認、株主総会や取締役会の承認、未処理の役員貸付金の整理などは、クロージング条件になり得ます。神奈川県内の地域密着型企業では、商圏や取引関係が狭く、関係者への通知順序を誤ると信用不安が広がることがあります。したがって、どの条件をいつ満たすかを契約前に工程表へ落とし込む必要があります。

クロージング条件を曖昧にしたまま契約すると、譲渡企業は『契約したのだから当然実行される』と考え、買い手は『条件が整っていないから実行できない』と考えるずれが生じます。このずれは、代金支払の延期、解除、補償請求、関係者への説明遅れにつながります。条件の達成責任者、期限、未達時の効果、協力義務、証明書類を契約書に明記することが、最終契約後の混乱を防ぐ基本です。

価格調整と運転資本の扱い

表明保証・補償条項と並んで重要なのが、譲渡価格の調整です。中小企業のM&Aでは、契約時点で合意した価格が、クロージング時の現預金、借入金、運転資本、在庫、未収金、未払金によって調整されることがあります。譲渡企業としては、価格の数字だけを見るのではなく、どの基準日で、どの勘定科目を、どの方法で調整するのかを理解しておく必要があります。

特に運転資本の扱いは、譲渡企業と買い手の認識がずれやすい領域です。譲渡企業は『通常どおり営業して引き渡す』つもりでも、買い手は『一定水準の売掛金、在庫、買掛金が残っていること』を前提に価格を決めている場合があります。クロージング直前に売掛金を急いで回収したり、在庫を過度に圧縮したり、支払を先送りしたりすると、買い手から価格調整を求められる可能性があります。

神奈川県の製造業、卸売業、建設関連、設備保守、店舗型サービスでは、月末・年度末・繁忙期によって運転資本が大きく動くことがあります。季節性のある事業では、単月の試算表だけで基準を決めると実態とずれます。直近12か月の月次推移、繁忙期と閑散期、主要取引先の支払サイト、在庫の滞留状況を整理し、価格調整条項に反映することが重要です。

PMIを見据えると契約条項の優先順位が見える

PMIとは、M&A後の統合プロセスを指します。中小企業の会社売却では、契約締結がゴールのように見えますが、買い手にとっては譲受後の運営が本番です。譲渡企業にとっても、従業員、顧客、取引先、地域での信用が守られなければ、納得できる承継とは言いにくくなります。PMIを見据えると、表明保証や補償条項で本当に重視すべき点が見えます。

例えば、譲渡後に買い手がすぐに運営できるかを左右するのは、経営者の頭の中にある営業ノウハウ、現場責任者の協力、主要顧客との関係、システムや帳票の引き継ぎ、金融機関やリース会社への説明です。これらは財務諸表だけでは分かりません。契約条項としては、旧代表者の引き継ぎ協力、競業避止、顧客紹介、従業員説明、資料引渡し、システム利用権、商号や屋号の使用範囲などに反映されます。

PMIを見据えずに補償条項だけを強くすると、譲渡企業と買い手の関係が対立的になり、譲渡後の協力が得にくくなります。一方で、リスクを曖昧にして『信頼関係で進める』だけでは、問題が起きた時に責任の所在が分からなくなります。契約は対立のためだけにあるのではなく、譲渡後の協力関係を守るためにもあります。重要なリスクを明文化し、軽微な事項は実務で解決できるように設計することが、中小企業M&Aでは現実的です。

また、PMIを意識した契約では、譲渡後100日程度で何を確認するかも決めておくと実務が安定します。顧客への挨拶状況、従業員面談、請求・入金サイクル、仕入先への説明、システム権限の移管、許認可や保険契約の名義確認、旧代表者への問い合わせ窓口などを工程化しておけば、買い手は運営を引き継ぎやすく、譲渡企業も不要な責任を抱え込みにくくなります。表明保証や補償条項は、契約書の中だけで完結するものではなく、譲渡後の実行計画と接続して初めて意味を持ちます。事前準備が、最終的な納得感を左右します。

従業員説明と表明保証の関係

従業員への説明は、M&Aの成否を左右する重要テーマです。雇用条件、勤務地、役職、給与、退職金、就業規則、未払い残業、社会保険、有給休暇などは、買い手のDD対象であり、表明保証・補償条項にも影響します。従業員に配慮した進め方については、既存記事「<a href="https://kanagawa-ma-center.jp/2026/05/01/kanagawa-employees-ma-explanation/">従業員に不安を残さない会社売却の説明タイミングと準備</a>」も参考になります。

譲渡企業側で労務資料が整っていない場合、買い手は未払い賃金や退職リスクを警戒します。結果として、補償条項が厚くなったり、譲渡代金の一部留保が求められたりすることがあります。逆に、雇用契約、賃金台帳、勤怠、就業規則、社会保険、退職金制度、キーマンの意向が整理されていれば、買い手は譲渡後の運営計画を立てやすくなります。

契約前チェックリスト

譲渡企業経営者が最終契約前に確認したい項目を、実務目線で整理すると次の通りです。すべてを自社だけで判断する必要はありませんが、相談前に現状を把握しておくほど、専門家との打ち合わせが具体的になります。

  • 表明保証の対象項目が、自社で実際に確認できる内容になっているか
  • 開示済み事項、例外事項、買い手が承知した事項が契約上も反映されているか
  • 補償期間、補償上限、免責金額、請求手続が明確か
  • 経営者保証の解除・移行が、誰の義務として、いつまでに行われるか
  • 許認可、主要契約、賃貸借契約、金融機関、従業員対応がクロージング条件に必要か
  • 代金支払の留保、分割、調整、相殺の条件が明確か
  • 譲渡後に旧代表者が協力する範囲、期間、報酬、責任が決まっているか
  • 専門家の役割、手数料、利益相反、相手方手数料の有無が説明されているか

専門家に相談する時の確認ポイント

M&A仲介会社、FA、税理士、公認会計士、弁護士、金融機関、事業承継・引継ぎ支援センターなど、相談先にはそれぞれ役割があります。重要なのは、誰が買い手探索を担い、誰が契約書を確認し、誰が税務・労務・許認可を確認するのかを分けることです。仲介者やFAに相談する場合は、中小企業庁のM&A支援機関登録制度や中小M&Aガイドラインの遵守状況、手数料体系、相手方手数料、利益相反への対応も確認すべきです。

神奈川県事業承継・引継ぎ支援センターは、親族内承継、役員・従業員承継、第三者承継(M&A)などの相談窓口を設けています。公的支援機関は無料相談の入口として活用しやすく、民間専門家に依頼する前の論点整理にも役立ちます。ただし、最終契約書の個別条項や補償責任の判断は法務・税務・会計の専門判断が必要になるため、契約締結前に適切な専門家へ確認することが現実的です。

まとめ:最終契約は最後に考えるものではない

表明保証と補償条項は、M&Aの終盤で突然出てくる契約用語ではありません。実際には、初期相談、買い手探索、資料開示、DD、価格交渉、金融機関協議、従業員対応のすべてとつながっています。譲渡企業側が早く整理するほど、買い手は安心して検討でき、譲渡企業は過度な補償責任や代金留保を避けやすくなります。

神奈川県で会社売却や事業承継M&Aを検討する場合は、まず自社の資料、契約、借入、保証、許認可、従業員情報を棚卸しし、どのリスクを開示し、どのリスクを契約条件で調整するかを考えることが重要です。価格だけを先に決めるのではなく、価格を支える前提を契約で明確にする。その姿勢が、譲渡企業・買い手双方にとって納得しやすいM&Aにつながります。

参考にした公的情報

  • 中小企業庁「中小M&Aガイドライン」
  • 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」PDF
  • 神奈川県事業承継・引継ぎ支援センター
  • 神奈川県事業承継ネットワーク

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